●遙かなる山
朝日連峰の南部主峰を盟主「大朝日岳」とするならば、北の主峰にあたるのが「以東岳」である。以前から登りたかった以東岳であるが、コースタイムが長いのと、せっかく登るならば紅葉の季節に行こうと思っていたことから後回しとなり、東北地区で最後に残った日本300名山になってしまった。今年も先々週に登ろうと近くまで来ながら、山形SAで仮眠を取ったら寝過ごしてしまい時間不足となり「葉山」へ転進。先週の三連休は季節外れの台風が接近し、日本海側の東北地方は大荒れになってしまい西日本の山に転進。なかなか登らせてくれない。この週末は漸く全国的に秋晴れとなり、三度目の正直で満を持して以東岳を目指すことにした。
東北道を北上し、山形寒河江のSAに車を停めて仮眠、時間調整をして3時半に再び走り始める。庄内あさひインターを下りて県道349号線を南下すると、途中でカーナビから道路損壊による通行止め情報が流れ心配したが、工事は終わっていて無事に通過。タキタロウ公園からは東大鳥川沿いの林道を走ったが、県道から登山口となっている泡滝ダムまで20分弱、寒河江のSAからでは2時間弱で登山口に着くことが出来た。薄暮の中、登山の準備をする。登山口付近は道路が広くなっていて、20〜30台ぐらいは楽に停められそうであった。準備が整って、6時少し前に歩き始める事にした。
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泡滝ダムの脇から登山道へ
水筒要らずの登山道
ブナ林に朝日が差し込む
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吊橋で冷沢を渡る
紅葉に包まれる大鳥池
タキタロー山荘
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●大鳥川に沿って大鳥池を目指す
泡滝ダムからの道は、大鳥川に沿った平坦な道だ。万一遅くなってしまい、日没後にヘッドランプを点けて歩く事になっても危険はなさそうだった。道の脇の斜面からは、至るところで水が流れ落ちていて「水筒いらずの山」と言うのも頷けた。大鳥川の両岸はブナ林が色付き始めていたが、この辺りの高度では来週辺りが紅葉の最盛期の感じで、まだ緑色の葉が残っていた。木々の間からは対岸の斜面とそれに続くピークが見え隠れしていたが、山の上の方は錦色で丁度紅葉真っ盛り、恐らく大鳥池辺りの高度からは今が見頃であろうと思われた。涼しい朝の空気の中、ピッチが自然と上がる。何人かの登山者を追い抜いたが、殆どが地元の人の様であった。山菜を入れる籠を持った年配の方もいて、会話を交わすと月二回は大鳥池まで歩いていると言う。アルプスの山は何となく下界と別世界の感じがするが、以東岳は如何にも麓の生活と繋がっている東北の山らしい感じがした。
歩き始めて45分で、冷水沢を吊橋で渡る。地図を見ると少し先にもう一つ吊橋があり、ここまで行って休む事にした。登山口から歩く事1時間10分で七つ沢の吊橋に到着、ザックを下ろして休む。いでたちから地元の方らしい人が居たので山の様子を聞くと、池から上は紅葉が丁度いいと言う。以東岳は麓が晴れていても霧のかかる事が多いらしいが、今日は一日晴れるだろうとの事、意を強くする。ガイドのコートタイムは長く記されているが、タキタロー小屋から以東岳まで周回コースをとっても、軽装ならば正味3時間あれば大丈夫ではないかとの事で、折角の好天気だし景色を楽しみながら周回する事にしようと思った。
七つ沢の吊橋からは暫らく平坦な道をあるいた後、九十九折の「七つ曲」で池までの高度を一気に稼ぐ。道自体は傾斜が緩くなる様につけられていて、思ったよりも疲れない。七つ沢の吊橋から1時間もかからずに大鳥池に到着、池の辺りは紅葉が丁度見頃で素晴らしい景色が広がっていた。僅かな風に水面がキラキラ光り何とも良い感じだ。小屋の少し先には、水場と綺麗な御手洗いも整備されていた。 |
「黄金の園」を登る
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見事に色ずく山肌
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三角峰付近から視界が開ける
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●山頂を目指す
タキタロー小屋から池の水門を渡った所で、登山道は池の淵を巡って東沢から直登するコースと、尾根筋にぐるっと廻るコースに分岐する。周回コースを取っても4時間かからない様であり、今回は左回りで尾根筋の登山道で登る事にした。斜面に取り付いて間も無く、上のほうから大きなリュックを担いだ登山者が下りてきた。挨拶を交わすと、昨夜は山頂直下の「以東小屋」に泊まったのだと言う。昨日・今日と2日続けて快晴で、山頂からは大展望を心ゆくまで楽しめたそうだ。相次いで3名の小屋泊まりした登山者とすれ違った。尾根への取り付きで坂が続くが、登山道は紅葉のトンネルとなっていて、黄色や赤に綺麗に色づいた木々を追いかけているうちに、疲れを気にすること無く高度を稼いでいた。
分岐点から約40分で見晴らしの良い地点に出る。地図上では三角峰と記された頂の一つ手前のピークの様だ。ザックを下ろして展望を楽しんだ。この辺りからはブナ林は無くなり、中低木が多くなり視界が開け出す。そして三角峰を越えた辺りからは、登山道は笹原の中を進む様になり、360度の展望を楽しみながらの稜線漫歩となった。振返ると鳥海山や月山が霞の上に浮かんでいる。正面に見え出したのは、先々週に仮眠した時に寝坊して、以東岳に登れづ替わりに登った葉山だろうか。景色を楽しんでいるうちに、一つのピーク上にコース標識が立っていた。頂きの名称は記されていなかったが、どうやらオツボ峰の様だ。
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笹の斜面を登る
眼下に見える大鳥池
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以東岳山頂
山頂直下に立つ以東小屋
水面の直ぐ脇を歩く
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●大展望の頂に立つ
稜線を巡るコースは、小さなピークを上り下りしながら次第に高度を上げてゆくと、色づいた山肌の影から、コバルトブルーの大鳥池が見え始めた。以東岳側から見下ろすと熊の手の様な形をしてい大鳥池は、見事に景色に溶け込んでいた。この池がある事で、以東岳がひときは引き立っている。見え始めた大鳥池の景色を楽しみながら歩いてゆくと、やがて山頂に到着した。「以東岳」と記された標識は無かったが、ピークを示す三角点はしっかりしていた。山頂に立つと、正面には朝日連峰の主脈が延びていて、遙か彼方にピラミッドの形をしている大朝日岳が聳えている。右手には飯豊連峰の山並み、左手には蔵王から船形山に至る山並。振り返れば月山、鳥海山。南東北の主だった峰峰が全部見える。そして眼下には真青な大鳥池。大満足の展望だ。コースタイムより早く登れた事で、ビールを片手に一時間以上、こころゆくまで展望をたのしんだ以東岳の山頂であった。
下山路は周回コースを取り、池から以東小屋を経由して山頂へいたる登山道を下る事にする。山頂で新潟から来ている単独行の登山者と会話したが、池からの直登コースでは登りで2時間30分かかったと言っていた。この方とは、朝タキタロー山荘付近で挨拶を交わしていた。山頂から池までは1時間少々で下れるが、ここからタキタロー小屋までは、水面のすぐ脇をアップダウンする。タキタロー小屋に着いて一休みしていると、行きと山頂で出会った新潟の登山者と再び再会した。直登るコースも迂回コースも時間的には大差ない様だ。小屋からは朝歩いた道を戻るが、疲れていたせいか登りと時間的には殆ど同じ所要時間であった。山地図のコースタイムが11時間近くになっていて、ヘッドランプの使用もあるかと思っていたが、まだ充分明るい15時30分に登山口に戻る事が出来た。紅葉と大展望に満足した以東岳である。
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右が月山、左が鳥海山
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大朝日岳へ繋がる主稜線
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雲海に浮かぶ飯豊連峰
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