●カンテラを点けて釜無し林道を歩き始める。
南アルプスの鋸岳へ登るには、南側の戸台川からガレた沢を詰めて登るルートと、北側の釜無川源頭部から登るルートがある。他にも甲斐駒ヶ岳からザイルを駆使して縦走するルートもあるが、今回は交通のアクセスが良く、危険箇所の少ない釜無川から日帰りで山頂を目指す事にした。早朝2時前に家を出発、中央高速を小淵沢で降り、国道20号線から釜無川林道を少し走ると、林道ゲートに行き当たる。もう既に一台車が停まっていて、歩き始めた人がいる様であった。真っ暗な中で懐中電灯を頼りに装備を固めていると、後から登山者と思われる車が2台やって来た。行程に不安があるルートだけに、同じルートを歩く登山者の存在は心強い。まだ暗い朝4時半、カンテラを点けて林道を歩き始めた。
釜無川には幾つもの砂防ダムが設置されている。地図上では林道終点から上流に、本谷第三・第四・第五とダムが印されていたが、実際には第五ダムのさらに上流で工事がされていて、昔の飯場跡まで林道が伸びていた。そして林道終点には新築のログハウスが建っていて、「避難所」と印されたベランダの下側はスノコ状になっており、幕営するには快適な場所の様に見えた。この日も、前夜に幕営したと思われる一行の荷物がデポされていた。蛇足になるが、平日は砂埃を巻き上げて沢山の大型車が行き交う様で、林道端の草は土ホコリで真っ白であった。日曜日は工事が休みらしく、この林道を歩くなら日曜日が良いだろう。
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砂防工事の釜無川を行く
林道終点から三角点ピーク
赤テープを頼りに進む |
富士川水源標識柱
現在のルートは此処から
右側の斜面を登って行く
赤テープを頼っていくが...
暗い森を進む
下山時に通った横岳峠
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●赤テープを伝って
林道終点で釜無川を渡渉し、林道とは反対側の川岸を歩いていくのだが、明確な登山道にはなっておらず、踏み跡を辿って歩く事になる。赤テープや、岩に記された○印を頼りに歩き進む。再び釜無し川を渡り返し、沢づたいに川原を詰めていくと、「富士川水源」と書かれた標柱が現れた。ルートは此処から沢と離れ、杉林の傾斜地を一気に登って行く。標柱か15分程登ったところで、傾斜が一旦緩くなり、倒木の多い杉林に出る。木の幹に赤い印がしてあったり、赤や銀色のテープを頼って進んでいくと、途中から踏み跡が一気に頼りなくなった。
前進をためらって地図を見ていると、後から六人パーティーがやはり自分と同じルートを辿って登ってきた。赤と銀のテープを辿りながら、暫らく一緒に登る。道を誤ったかと思われる倒木帯から約30分程登って行くと、今は使われていない造林小屋が現れた。近くの木にはワイヤーも設置されている。登ってきたルートはこの造林小屋が使われていた頃のルートなのだろうか。辺りをよく見回すと、小屋の近くから、さらに上へと続く踏み跡が有ったのでこれを頼りに歩き始めたが、程なくルートが判らなくなった。赤や銀のテープも表れない。先程の六人パーティは、造林小屋から斜面を左方向に登って行った。再び地図を広げて現在位置を確認する。こういう時には1/25000が役に立つ。等高線がデフォルメされた登山地図では詳細が判らない。木々の間から見える景色からして、どうやら既に横岳峠と同か、それ以上の標高地点まで来ている様だ。少しでも早く登山道に復帰したい。等高線に沿って右に進めば、横岳峠から三角点ピークへ登るルートにぶつかるのは間違いないと思い、進行方向を右手にとる事にした。時計を見ると既に9時をまわっている。「もし10時半になっても登山道に復帰できなかったら、引き返そう。」と腹に決めて、木の枝をかき分けながら斜面を右へ右へと進んでいくと、ひょっこり立派な登山道に出た。ホッとする。道なき道を登って来た目には、しっかりとした「踏跡」は立派な登山道、いや高速道路の様にさえ見える。三角点ピークまでは、さらに標高差400m近くを登るが、再び道を失う事は無かった。
現在の登山道は、倒木の多い杉林を右へと登り、1800m付近にある崩壊地の西側を通って横岳峠で稜線に出る。しかし古い地図では、ルートは崩壊地の東側を抜けて、横岳峠より標高が150m程高い地点で稜線に出る様になっている。何れのルートにも赤テープがあり、古いルートには銀色をしたテープまで付いていた。途中から踏み跡が怪しくなったが、テープがあった事と木の間を登り進む事が出来た為、旧ルートに迷い込んでしまった様だ。ただ距離的には旧ルートの方が短かく、道に迷った割には、正規のルートを歩いたのと同程度のコースタイムで三角点ピークに登る事が出来た。 |
●細い稜線を辿って山頂へ
三角点ピークは、横岳峠から登って来た道から鋸岳への道を右に分けてから20〜30m先にあった。展望は余り良くない。三角点ピークでザックを下ろし一休み、ここから先は細い稜線歩きが続き、両手を使った登りが予想される。ストックをザックに結わえ付けた。三角点ピークから鋸岳第一高点までは、鋸の歯の様なアップダウンを繰り返して登ってゆく。左右の切り立った細い稜線を予想していたが、第一高点までは稜線の北側は潅木が生えていて、南側がスパッと切れ落ちているものの思ったほど危険ではない。 |
三角点ピーク付近から鋸岳 |
鋸の歯の様な稜線上のルート |
稜線の南側は断崖 |
コルからの登り斜面 |
鋸岳山頂 |
角兵衛沢のコルでは、戸台川から登って来るルートと合流するが、今にも谷筋の石が転がり落ちそうで、この沢を詰めて登って来るのは容易ではないだろう。コルから急な斜面を、道の両側に生える潅木に掴まりながら登って行くと、漸く鋸岳山頂に到着した。林道歩きも含めて約5時間30分、長い行程であった。山頂には、ザイルやハーネスを身に着けた、第二高点・鹿の窓へと縦走するパーティーもいる。山頂から第二高点・甲斐駒方面を見ると、既に何組ものパーティーが縦走路を歩いていた。 |
山頂から三角点ピーク |
雲の多い1日であったが、お陰で涼しい登山が出来た。暑い日だったら水分補給が大変だったかもしれない。途中で道に迷った場面もあったが、結果的にはほぼコースタイムで山頂に立てた。ホット一息ついてビールで乾杯。南アルプスの山景色を楽しみながらの一杯には、格別のものがあった。 |
山頂から第二高点 |
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