●仙境のブナ林を登る
焼石岳に登った翌日、真昼山地の主峰「和賀岳」に登る事にした。宿泊地の北上から高速で湯田に向かい、ここから県道一号線を北上、沢内村の高下から林道を8キロ位入った処が登山口になっている。北上から車で1時間30分程だ。今日の山はハードな行程が予想された事もあって、早めにホテルを出発したが、登山口に到着したときには既に何台もの車が停まっていた。
登山道は最初のうち植林帯を進んでいくが、15分も歩くとブナ林帯に入る。歩き始めて30分程の急登で、高下岳から南に伸びる稜線部に達すると、ここからは「ゆったりとした」ブナ林の稜線歩きが始まった。和賀山塊は、少し前までマタギが生活の糧を得ていた程の奥深い山域で、自然林の深いブナの森は、仙境の観すらある。所々ではブナの倒木が登山道になっている場所もあり、なかなか気が抜けない。登山口から50分程で、高下岳への分岐点にさしかかるが、ここからは和賀岳川に向かって下り坂だ。登山口から分岐点まで、約400mの高度を稼ぐが、和賀川の渡渉点に向かって約200m下る。和賀川に向かう途中、地元の人であろうか、湧き水のある開けた場所で野遊びをしていた。深いブナ林の中で、のんびりと時を過ごすのも良いものだろう。自分もアクセク山頂を目指すのではなく、森に包まれて贅沢な時間をすごしてみたくなった。 |
和賀岳登山口
ブナの稜線を進む
高下岳分岐点
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和賀川の渡渉点
急坂を登る
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●冷たい和賀川を渡渉して
分岐点からの下り坂を降りきった所が、和賀川の渡渉点になっている。梅雨時のせいか水量が多い。登山靴を脱いでリュックにしまい、素足で水に入る。水深は膝上程度で、注意深く進めば危険は無いのだが、何しろ水が冷たくて痛い程だ。最後はめくったズボンが濡れるのも気にせず、小走りに渡り切った。出来ればサンダルかスリッパを持参するといいだろう。渡り終えてから、足を乾かしながら小休止にする。握飯を食べているうちに、足の感覚も戻ってきた。
和賀川からの登りは、いきなりの急登となる。気分を紛らわせる為に一歩一歩数えながら2000歩まで歩いたが、ここで限界。ザックを下ろして休んでいると、上のほうから登山者が降りてきた。聞くと朝5時過ぎに歩き始めたと言う。「山頂部は風があるものの、花畑が実に綺麗。」との事で、花を楽しみに再び登り始めた。和賀川の徒渉点から1時間少々で森林限界を抜ける。この辺りから登山道は笹の中を進む様になった。登山者が少ない為か笹が道を覆い、歩行面はしっかりとしているものの、足場が見えず、所々で木の根に躓く。所々にテープがあるのと、ルートは笹が幾分凹んでいる為、道を間違える事は無かったが、笹を掻き分けながらの歩みは慎重にならざるを得ない。笹原を掻き分けること15分程度で、漸く「コケ平」に辿りついた。 |
●彼岸の様な山頂
コケ平から先は、しばらく平坦な稜線歩きとなった。天気が良ければなんとも無いルードなのだが、ガスで視界が利かない時には、ルート選定を慎重にとなければならない。小石交じりの風衝草原は、霧の中では何処もが道のように見え、この日も2〜3度道を失いかけた。道を外すと、大抵は地面の硬さが変わるので、ルートが何となくオカシイのが直ぐ判る。そんな時は少し戻って、踏み固められた地面が有る場所を探す。硬い地面が見つかれば、その前後に登山道が見つかる事が多い。
風衝草原と、笹と低木帯を交互に越していくと、いよいよ和賀岳への最後の登りにさしかかった。天気が良ければ焼石連峰から鳥海山までの大展望が広がっているはずなのだが、生憎のガスで展望は望むべくも無い。所々に広がる花畑がせめてもの救いだ。道端の花を楽しみながら登っていくと、濃いガスの中に祠が突然出現した。和賀岳の山頂に到着した様だ。自分の他には誰も居ない静かな山頂は、日光キスゲの花畑に包まれて、何かしら「彼岸の風景」やかくありなん、と云った感じの幻想的な場所であった。 |
笹を掻き分けて進む
登山道が判りにくい稜線部
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彼岸の様な景色の山頂部 |
◎和賀岳は奥深い山で、深いブナ林、和賀川の徒渉、山頂部の花畑と、変化に飛んだ山歩きが楽しめる。ただ、橋の無い和賀川本流は、雨の前後はかなりの増水が予想され、天候には充分な注意が必要。
◎下山後は沢内村にある温泉で汗を流してゆける。この日は、12年ぶりに真昼温泉を訪ねたが、いい御湯だった。 |
和賀岳の山頂
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