●遥かなり笈ヶ岳
岐阜・富山・石川の県境に、「笈ヶ岳」という山がある。この山、なかなか形のいい山なのだが登山道が開かれておらず、無雪期には猛烈な藪漕ぎを強いられる為、この山を目指す登山者の多くは残雪期に登っている。ただこの残雪期も一筋縄ではいかず、95年はブナオ峠からの入山を目指したが林道の崩落で笈ヶ岳を断念、大日岳と鷲ヶ岳に転進。去年も笈ヶ岳を目指したものの、雪面の状態が悪いとの情報で、人形山や野伏ヶ岳等に登って来た。今年はその再チャレンジである。
東京の都心を2日の夜7時半に出発、関越道から北陸道に入り五箇山インターに着いたのが2時半頃、雨が降っていたため高速道の橋脚の下を幕営地として仮眠を取った。起床は朝8時。カップラーメンの朝食をとってから荷物を作り、車で登山口となる白山スーパー林道の馬刈ゲートに向かう。ゲート脇の駐車場には既に7〜8台の車が停まっており、我々が到着した時にも丁度一組のパーティーが出発するところであった。
馬刈のゲートから約2時間で白川郷展望台に到着する。途中、小雨が降り出したため雨具をまとったが、程なく降り止んだ。白川郷展望台付近からは、雪の壁の間を進む様になり、深いところでは4〜5mの雪壁になっていたが、路面の除雪は済んでおり、休息時間も含めて、約3時間30分で思ったより早く三方岩に到着した。トンネルの入口付近には既に一組が幕営しており、少し内側でテントを設営する事にした。おでんと熱燗が美味い。翌日の長丁場に備えて、9時前にシュラフに潜った。
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スーパー林道の馬刈ゲート
雪壁の中を進む
三方岩トンネル
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瓢箪山から笈ヶ岳を望む
1460mピークから仙人窟岳方面
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●三方岩トンネル
2日目は3時に起床して4時出発の予定であったが、雪を溶かして携帯用の飲料水を作るのに時間を取られ、4時30分の出発となった。もうすでに明るくなっており、ヘッドランプは最初から不要だった。トンネル脇の急斜面を登ると、15分程で稜線に辿り付く。程なく朝日が昇り始め周囲の山を赤く染めていく様が美しい。三方岩岳から瓢箪山に伸びる稜線上にはテントが4張程張ってあった。皆、もう出発した後の様である。出発してから約45分、瓢箪山に達すると一気に視界が開け、屋根のような形をした仙人窟岳の先に、笈ヶ岳の姿を望むことが出来た。ピラミダルな形をした笈ヶ岳と、ふっくらとした大笠山は並んだ様は実に美しい。
瓢箪山から国見山にかけては広々とした稜線が続き、景色を楽しみながらの歩行となった。国見平には5〜6張のテントが張ってあったが、皆出発した後のようだ。この分では、山頂は大賑わいだろう。
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藪漕ぎが始まった。
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●藪を漕いで進む
国見山と仙人窟岳の中間点にある1460mピークを過ぎた辺りから、稜線の石川県側に藪が現れ始めた。今年は雪が多いと聞いていたが、稜線上では果たして藪漕ぎが必要となった。入山者の少ない笈へのルートは踏跡が殆ど着いておらず、濃い藪になかなか距離を稼げない。 |
仙人窟岳の山頂の直下 |
●仙人窟岳を越えて
漸く藪の稜線を抜けると、登山道は仙人窟岳の西側を撒いて、いよいよ笈ヶ岳へと向かう稜線になる。仙人窟岳から笈ヶ岳に伸びる稜線の下りに入ると、真正面に笈ヶ岳と大笠山が連れ添って聳え立つ様になった。互いに存在を引き立てあっている感じだ。しかしなかなか近づかない。最初のピーク瓢箪山と笈ヶ岳の標高差は200m足らずであるが、アップダウンがきつく結構アルバイトの多い行程が続いている。 |
仙人窟岳付近から見た
笈ヶ岳と大笠山
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亀裂と亀裂の間を進む |
おまけにこの頃になると、朝のうちしっかり締まっていた雪面も緩み始め、一歩進む度に半歩滑り戻る様な感じがして気分的にも疲れる。また仙人窟岳から先の稜線の雪庇では、大きな亀裂が随所に見られ、緊張の連続であもった。危険な事が判っていても濃い藪に迂回路を取れず、あと数日もすれば崩れ落ちるであろうと思われる雪庇の、亀裂と亀裂の間を進んだ時など、思わず摺足で進んでしまった。
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最後の難所
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●トラロープを頼りに
漸く危険な雪庇地帯を抜けたと思ったら、落差10m程の岩壁が現れた。迂回路が左側に付いていたが、急傾斜地の藪の中をトラロープを頼りに無理やり越える、結構怖い迂回路だ。藪の先にあったホールドの少ない岩壁を、ロープを頼りに体を持ち上げると、いよいよ笈ヶ岳への最後の斜面に取り付く。 |
手前下から伸びているのが
トラロープ |
●笈ヶ岳
鞍部から一気に突き上げ、真っ白に雪を被った「ニセ笈」を越えると、直ぐ先に笈ヶ岳の山頂が目に飛び込んで来た。三方岩を出発して約5時間30分、漸く笈ヶ岳山頂に到着した。山頂は大賑わいで、次々と新しいパーティーが到着する。大笠から縦走してきた人、冬瓜山から登って来た人、皆ほぼ同じ時刻に到着する様だ。きっと今日が一年で笈ヶ岳が一番賑わう日に違いない。山頂の標識や三角点のある頂上部は雪が解けていて、笹のような下草が芽生え始めていた。 |
笈ヶ岳の頂上部 |
笈ヶ岳山頂にて
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ビールで登頂に乾杯してドーナッツで小腹を落着かせてから、早々に引き返す事にする。トラロープのあった岩壁と亀裂の入った雪庇の危険地帯を、早く越えてしまいたかったからである。山頂から1時間半ほど戻った比較的安全な地点で、大休止を取る。藪漕ぎが残っているとはいえ、一番危険な箇所を通過した事もあって、ここでカップにすくった雪に持参のウイスキーをたらして再び乾杯。漸く笈ヶ岳に登れた喜びが、実感として涌いてきた。 |
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●落石と崩落
気温の上昇と供に緩んだ雪道に疲れたこともあって、帰路は行きとほぼ同じ時間がかかった。三方岩トンネルに戻ったときには16時近くなっており、もう一泊して明朝下山する事にした。
3日目の朝は少しのびり4時に起床、テントを撤収して6度頃林道を下り始めると、いきなりデブリに遭遇する。道路脇の雪壁が崩れていないことから、遥か上の斜面に付いていた雪が、暖かだった昨日の天気でゆるんで落ちてきたのであろう。林道の谷側は深い谷になっており、こんなのに直撃されたらひとたまりもない。危険な道は白川郷展望台付近までつづいており、この間に3日前には無かった、要するに昨日発生したデブリか゜4箇所もあった。危険度という意味では、三方岩〜笈ヶ岳間よりスーパー林道の方がずっと危険であろう。 |
●岩魚の骨酒
今回の笈ヶ岳山行は、天候も含めてかなり運に助けられた山行であった。例年に比べて雪が多く藪漕ぎが短かった事。登る前日は冷たい雨が降り温度が下がった為、三方岩から笈ヶ岳への雪道が良く締まっており、アイゼンが良く効いて歩き易かった事。崩落の危険の高い白山スーパー林道を通過した初日の午後は温度が下がり、崩落が無かった事。また帰路では、温度が上がる前に通過出来た事。等々..。
下山後は五箇山の「くろば温泉」で汗を流したあと、温泉に併設された展望の良い食堂で、久しぶりに下界の御馳走を楽しんだ。山菜料理の他、五箇山豆腐の揚げ出し、岩魚の塩焼きと刺身、そして岩魚の骨酒。笈ヶ岳を振り返りながら頂いた骨酒の味は格別なものであった。
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