●三峰川林道を歩く
南極にも遠征された事のある山の先達B氏に連れられ、南アルプスを流れる三峰川を遡行して、仙丈岳にを越えて北沢峠に抜けることにした。
高遠からタクシーで三峰川に沿って林道を進んだが、途中工事の為、小瀬戸で降ろされてしまった。大曲のゲート迄入るつもりであった当てが外れ、3時間余計に歩く事となった。延々と続く林道を、辛抱強く進む。大曲から30分位進んだ辺りに、林道の脇に湧く延命水はなかなか美味しい水だった。歩き始めて約6時間、漸く林道終点に到着する。ここから少し進むと、渡渉が始まる。初日は、林道終点で幕営する事にした。 |
●倒木地帯を越えての沢登り
2日目、三峰川沿いに10分も進むと、歩ける河原が流れの反対側に移り、渡渉しなければ先に進めなくなる。半ズボンに履き替え、渓流釣り用のゴム靴を履いての沢登が始まった。8月に入り雨が少なかったせいか、水量は予想より少なく、膝が隠れるくらいの深さのところを、慎重に進んでいく。水は程よい冷たさで、気持ちが良い。
大横川分岐を過ぎる頃から河幅が狭くなり、倒木が目立ち始める。程なく、高まきをしなければ越えられない個所に出た。刺のある下草で怪我をしないように、長いズボンと登山靴を履き、B氏が鉈で藪を開きながら道を付け、倒木地帯を越えてゆく。高巻の度に靴を履き替える事もあって、思うように距離が稼げない。 |
●三峰源流での幕営
この日は、斜面に取り付く三軒岩小屋沢分岐迄入る予定であったが、谷筋の夕方は早く、手前で幕営地を探すことにした。川幅が狭く、なかなか良い場所が見つからない。万が一増水した時の事を考えると、水辺の設営は危険すぎる。辺りが薄暗くなり始めた頃、漸く河原より一段高い所に、平らなテン場を見つけた。辺りから薪に出来る倒木を集めてきた頃には、とっぷりと日が暮れていた。 |
●三軒岩小屋沢分岐へ
3日目、再び三峰川源流を遡る。源流部分は水量が少ない反面、川底の石に赤茶色の藻が付着し、とても滑りやすい。渓流釣り用のゴム靴の底には、硬質の不織布が滑り止めに張ってあるが、それでもバランスを崩すと滑ってしまう。慎重に歩く事約1時間30分、前日幕営を予定していた三軒岩小屋沢分岐に到着した。 |
●地蔵尾根への道を失う
こからは沢筋と離れ、枯沢をなめながら地蔵尾根に一気に突き上げる。装備を固め直し、地図を頼りに登攀をはじめた。途中、開けた枯沢が大きく右に曲がっていて、枯沢筋に沿って急斜面を登っていく。木々が開け始めると、三峰川に大きなUの字型を描かせている小瀬戸尾根が下に見える様になった。高度的にはそろそろ地蔵尾根に出るはずなのだが、目の前の坂はなおも続いている。「道を間違えたか。」と思いながらも、高度的にはかなり登って来ており、そのまま進む。と、道がすっと消えてしまった。
どうやら、獣道に入ってしまった様だ。獣道は下枝がうるさく、かきわけながら進むのに体力を消耗する。時間も気になる。このままでは、水のある幕営地にたどり着けるのだろうか。再悪、何時に下降すれば、水のある三軒岩小屋沢分岐迄戻れるだろうか等と考えるが、焦ると方向感覚まで狂いだす。やおらB氏が「お茶を点てよう」と言って荷物を降ろした。「こういう時には、一服して落ち着いてから進む方向を決めれば良い。」と言う。なるほど、熱いお茶をすすり、飯盒の冷飯を食べると、不思議と気持が落ち着いてくる。15分程度の休息が、気が焦る時には大変効果的である事を、身をもって体験させられた。
休憩の後、斜面に向かって右方向に道を決め進むと、やおら地蔵尾根の稜線が見えた。 |
●仙丈岳をかすめて北沢峠に下る
地蔵尾根から仙丈岳カール壁まで、展望の良い稜線を進む。カール壁の分岐から山頂までは15分程度で登れそうだったが、明るいうちにテントを設営したかったので、そのまま仙丈カールのテントサイトまで下降した。ところが、折からの好天で、カールの水場が枯れている。水場のある、これより下の幕営地まで降りてしまっては、もう明日、登り返す自信は無い。しかし、幕営に水は必須である。後髪を引かれる思いで、藪沢カールを後に下る事にした。途中、馬の背ヒュッテは幕営禁止になっており、藪沢小屋のテント場まで降り、幕営した。
先程までの三峰川沿いと打って変わって、ハイシーズンの仙丈岳周辺は人が多い。その中で藪沢小屋は比較的静かな所だ。仙丈に登る人は、北沢峠周辺で泊って軽装で山頂を往復するか、馬の背ヒュッテや仙丈カールで泊って、朝一番で山頂を目指すかする人が多い様である。小屋からは、北沢峠を挟んでそびえ立つ甲斐駒ヶ岳が夕日に染まって、朱色に輝いていた。
4日目、朝ゆっくりと起床する。今日は北沢峠に2時間下るだけだ。山の上で朝ゆっくりと過ごすと、凄く贅沢な気持になれる。3日間の三峰川遡行を思い出しながら、藪沢小屋をあとに北沢峠へと向かった。 |
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